ネタバレなしでは語れない

映画大好き。感想はネタバレしないと語れないので、思いっきり結末にふれています。

未来よ、こんにちは

夫の浮気と離婚、母親の認知症と死、誇りを持って取り組んでいる仕事も、時代に合わないと言われ、うまくいかない。どの出来事も、誰だってぶち当たってしまう可能性は大きいけど、当人にとってみたら大変だし、大事件なのだ。

人生の節目の出来ごとにどう向き合うか、今作の主人公ナタリーは、誤解を恐れずにいえば、何もしない。傍から見たら本を読んで冷静に受け流しているように見える。このナタリーの人物造形が見事だった。

 

もちろん、ナタリーだって全く行動しないわけじゃない。ただ、今までの物語の主人公になりうる人物像とは違うことが興味深い。今までだったら、出来ごとに自ら関わって、能動的に行動することで、解決していく主人公が多かったと思うのだ。それと比べると、やっぱりナタリーは本を読んでるだけ。(ではないけど)

 

ナタリーは起こったことを受け入れる。それは、ただ受け身で流されることとは違う。浮気した夫には毅然とした態度をとる。お詫びの印の花はすぐに捨て(このとき、イケアのショッピングバックだけを取りに戻るナタリーは最高だった!)、合いカギを返せと言い、お気に入りの彼の実家の別荘にはもう来ないと宣言する。

自身が監修した哲学の教科書が時代遅れだと告げられた時は、その精神を批判する。明るく手に取りやすい表紙は悪趣味だと切り捨てる。

理想の教え子に、自身の思想と行動が一致していないと批判された時も、自分の言葉で反論する。

ナタリーには大切していることがある。他人にどんなに批判されようとも守る。それは目に見えるものじゃないから、他人からは理解されないのかもしれない。ただ、私は知っている。ナタリーはいつも本を読んでいる。それがナタリーを支え、ナタリーが守ろうとしたもの、自分の思考だ。

 

今、「内向型人間のすごい力」という本を読んでいる。

内向型の特徴として、自分の思考や感情について考えるのが好き、周囲の出来事の意味を考える、一人でいることで気力を充電する。

対して、外向型は、外の世界や人と関わるのが好き、出来ごとに自ら飛び込んでいく、人と交流することでエネルギーを充電する。

ざっと書くと、こんな感じ。ナタリーは内向型。私も内向型。内向型って物語の主人公になりにくいと思うのだ。だって動かないんだもん。それでもこの作品は、見事に物語を紡ぎ、ナタリーの姿勢を揶揄することなく描き切った。作中、ナタリーの行動を馬鹿にするような描写がないのが、本当によかった。

 

ナタリーは大切な決断をする時も、夫の浮気に傷つき泣く時も、いつもひとり。予告では、離婚し、母親に死なれて、「気がつけば、私、おひとりさま?」なーんてコピー付いてたけど、ふざけんなですよ。気がつかなくたって、ナタリーはずっとひとりを選んできたんだよ。それは、人と一緒にいることを拒絶することではなく、寂しいことでもない。ひとりでいることが自分にとって大切だと知っているのだ。ナタリーは自分にとって何が大切か知っている。それを守っている。たくましい。

ナタリーの姿勢に、内向型主人公が紡ぎだした物語に、私は勇気づけられたのですよ。