ネタバレなしでは語れない

映画大好き。感想はネタバレしないと語れないので、思いっきり結末にふれています。

これが私の人生設計

久々に見たけど、やっぱり面白い!
イタリアの男女差別を描いた作品だけど、ラストには女性だけにではなく、マイノリティーへの前向きなメッセージを届けてくれる。

海外で実績を残してきた建築家のセレーナ。故郷イタリアが恋しくなり、イギリスから帰ってくるところから物語が動き出す。
セレーナが会社の集まりか、同業者の集まりの中で「イタリアに帰る」と宣言すると、その場にいた全員が固まって、セレーナを振り返るという、思わず笑ってしまうシーンがあるのだけど、これが、イタリアの建築業界がどういうものかを端的に表わしている。男性社会のため、女性であるセレーナは仕事が見つからないのだ。業界では有名な話なんだなーと思わせる演出がうまい。
そして、イタリアに帰ったセレーナが安さだけで選んだ部屋は、天井が低いため、立つことができない。頭が抑えつけられているという、セレーナの状況が視覚的に表現されている。

仕事が見つからず、貯金も底をついたセレーナは、偶然見つけた公営住宅のリフォーム建築案に応募し、見事当選!しかし、浮かない顔のセレーナ。実は、プレゼンの場で男性建築家のアシスタントと間違われ、そのまま訂正せず、当選してしまったのだ。セレーナはバイト先のレストランオーナー、フランチェスコを身代わりに立てて、なんとか乗り切ろうとする。
テレビ電話で打ち合わせを行うこととなり、セレーナはパソコンでフランチェスコに指示を出し、その通りに演じてもらう。この打ち合わせでは、建築事務所の社長(男)が秘書のミケーラ(女)に耳打ちで指示をもらうという、まるでフランチェスコとセレーナと合わせ鏡のような出来事が描かれる。

やってることだけ見たら、セレーナもミケーレも同じなのだけど、根本は違う。男性上司の案と偽ってはいるが、リフォーム案はセレーナ自身が考えたもの。フランチェスコもそれを承知しているし、男性社会の業界ではこの戦い方でいくしかないと、決意されたもの。セレーナが嘘をついている相手は、社長や建築事務所で働く人たち。
それに対し、ミケーレは、女性が男性の仕事を支えるのは当たり前と内面化してしまっている。この事務所では、女性社員だけが残業している。ミケーレが嘘をついているのは自分自身に対してだと思うのだ。

とあるきっかけで、事務所の社員の1人がゲイであることが分かる。彼は社長の前ではプレーボーイで通していて、毎日セレーナのお尻を触っていた。なぜと問うセレーナに、「応募200人で誰がオカマを採用したいと思う?」と答える。(ここ、字幕が「オカマ」になってるのは、意味があると思う。彼自身が自分のことを卑下する意味合いでそう呼んでいるのだ)そこに、つわりの女性が駆けこんでくる。「妊娠したら解雇」と契約書に書かれる業界。彼女も妊娠を隠していた。
仕事のためにみんな嘘をついている。

市との最終契約の段階で、社長が共同スペースをなくし、商業施設を誘致すると言い出す。共同スペースは、設計する上でセレーナが一番大事にしていたもの。居場所がなくてたむろしている男の子たちの遊び場で、狭い部屋に大家族で住む女の子には勉強する場所が必要。団地がどこも同じ作りだからおばあちゃんはいつも階段を探している。社長は人を見ていない、彼らが本当に必要としているものが分かっていないと言うセレーナを、女性だからと鼻で笑う社長。セレーナは設計したのは自分だと言い残し、事務所を去る。
翌日、事務所に書類を取りに来たセレーナ。10時いつものように社長のご出勤。が、様子が違う。妊娠していた彼女はお腹を隠さず堂々としている。ゲイの彼も恋人との写真を掲げる。そして、毎朝社長のためにコーヒーを用意していたミケーレは、そのコーヒーを社長の前で飲み干す。
社員たちに見送られて会社を去るセレーナ。このシーンは思い出すだけでジーンとしてしまう。建築業界でマイノリティーだったセレーナが、自分が大切にしているもののために戦った。同じような境遇に置かれていた人たちがそれに励まされ、行動をおこした。
そのことに胸を打たれるのだ。