ネタバレなしでは語れない

映画大好き。感想はネタバレしないと語れないので、思いっきり結末にふれています。

僕と世界の方程式

お父さんが言う「数学という才能があるから特別なんだよ」「人と違うから特別なんだよ」に、引っかかりを覚えながら見ていた。
ネイサンは確かに数学が得意。でも、まだ幼くて、これから成長して世界が広がれば自分より数学ができる人もいるだろうし、ネイサン自体の興味も数学以外に向くかもしれない。その時、ネイサンはどうなってしまうんだろうって、ことが引っかかってたんだと、チャン・メイを追うために数学オリンピック本番の会場から飛び出したけど、その後どうしていいか分からなくなってレストランで一人座ってるネイサンを見て気がついた。

合宿で会った自分より数学ができる人たち、勉強についていけず、コミュニケーションも苦手でメンバーの輪にも加われないネイサン。人と違うことがアイデンティティーだったのに、ここでは「人と違うこと」が普通のことになってしまう。そん中、ペアになったチャン・メイに惹かれていくが、母のジュリーから「数学よりも大切」なのか聞かれても、そんなわけがないと否定してしまう。

「数学という才能があるから特別なんだよ」「人と違うから特別なんだよ」
ネイサンは苦しんでいたんだと思う。その言葉を残して亡くなった父親の気持ちに応えたいと、数学を頑張っていたんだと思う。
大事な試験の時に必ず現れる、光の点滅。数学オリンピック本番でも現れ、それが何だったのかが明らかになる。
お父さんが亡くなった時に、ネイサンが見ていた光景なのだ。信号機の黄色、お父さんの流す血の赤、自分から流れる血の赤、泣き叫ぶお母さんの姿、割れたフロントガラスと、その向こうの光。
励ましてくれていたお父さんの言葉に、いつの間にか縛られるようになっていたのだ。それを振りきってネイサンは会場を飛び出す。

正直、「もったいない」と思ってしまった。
でも、ネイサンの目が真剣だったから止められなかったというマーティンと、彼にお礼を言って、ネイサンを決して責めないジュリー、そして、思い切って飛び出したはいいけど、どうしていいかわかんなくて、自分の行動にも戸惑ってるネイサンを見て、よかったねって思った。
特に、マーティンがネイサンを止められなかったことに、彼の変化を見て嬉しかった。
マーティンも数学オリンピックに出場するほどの頭脳の持ち主。だけど、病気のために数学を諦め、教師をしていた。昔を知るリチャードは、病気を言い訳に逃げただけだと手厳しい。数学を諦めたことも、病気のことも、何も気にしてないかのように飄々と振る舞っているマーティンだが、押しつぶされそうな不安を薬で抑え、ジュリーへの好意もなかったことにしていた。最初は鼻で笑っていたグループセラピーで、プライドを引きはがし、病気のことジュリーのことを告白するシーンは、私の中でのハイライトだった。
これがなかったら、マーティンはネイサンを止めていたと思う。そう思ったのは、「自分の教え子が数学オリンピックに出たこと」にアイデンティティーを見出す可能性があるから。でも、今のマーティンは、そんなものなくても自分の足で立っていけるのだ。
それはこれからのネイサンの姿でもあると思うのだ。ネイサンが世界と繋がる方法は数学だけじゃないはずだ。

見終わって、才能を生かさないなんてもったいないって思った自分に、人の人生にもったいないって失礼だろうって思った。ネイサンにしてみたら大きなお世話だろう。才能をどうするかなんて本人が決めることだ。人の人生にもったいないなんて言ってる暇があったら、マーティンのように、自分の足で立つことを目指さなければならない。
あと、「もったいない」には、せっかく頑張ってきたのに努力を無駄にするなんてもったいない、って気持ちもあった。だから、人の人生に、、、以下略。

ただ、女性陣の描写がちょっと残念だった。
ジュリーがネイサンを責めなかったのは確かによかったんだけど、ただ、あれだけ育てるのに苦労してたら文句の一つも言いたくなると思うのだけど。物分かりよすぎない?
チャン・メイは、合宿初日の夕食で、叔父が、あごで彼女にお茶を注ぐように命じるシーンがあって、姪だからなのか、女性だからなのか、その両方なのか、叔父が彼女のことを一族のための「道具」としてしか見ていないような描写がきつかった。でも、それ以外はただネイサンに寄り添ってるだけの存在としか見えなかった。残念。

あと、ルークが一人で繰り返し見ているDVDと、腕の傷のことを思うと胸が締め付けられる。数学なんか好きじゃないと自傷してしまう姿は、ネイサンの心の中でもあったんじゃないかって考える。だから、きっとルークにも数学よりも大切なものが見つかるはず。人と交わるための頑張りも、今回は失敗したけど、きっとうまくいくはず。でも、一人だと辛いから、マーティンを受け入れてくれたようなグループがあったらいいな。