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ネタバレなしでは語れない

映画大好き。感想はネタバレしないと語れないので、思いっきり結末にふれています。

ケンとカズ

職場の前でカズを待つケン。そこに来たケンが、カズの後ろからお尻を軽く蹴る。それを合図に歩きだす二人。会話はない。
あぁ、この距離感。
パチンコに行って、帰り道、ここでも会話もなく、2人のバックショット。
あぁ、この距離感。
別れるとき、何か言いたそうなカズの表情。子供のことが切り出せない。

この一連のシーンがすごく好き。冒頭の車の中の会話と、事務所でのカズがいないところでのテルや社長の口ぶりから、ケンとカズの関係が浮かび上がってきて、最初に書いたシーンに繋がる。シーンや会話を積み重ねて関係性を描く上手さに惹きつけられる。
この時、既にカズは、ケンの彼女、早紀が妊娠していること、そのことをケンが切り出せないことを知っていたのだろう。
なぜ自分だけに言いだせないのかも、ケンが子供をきっかけにこの仕事を辞めようとしていること、カズは全部わかっている。
「子供ができたからって、てめえの都合だけで辞めるじゃねえんだよ」
このセリフは、きつかった。どこかでカズを信じたい気持ちが、私の中にあったのだ。早紀と別れろ別れろと言っていたけど、子供ができたと知ったら祝ってくれると思っていた。たぶん、ケンもそうだったんじゃないか。
このことと、カズに認知症の母親がいることをケンが知ってしまったこと。
この2つをきっかけに、ケンとカズの関係が変わったように見えた。ケンがカズのお兄ちゃん的存在に見えていたし、周りもしっかり者のカズと言うこと聞かないケンって扱いで、ケンの面倒はカズが見てるって雰囲気だったけど、カズのケンに対するライバル心とか、優位に立ちたい気持ちとか、引き留めたいこと、もう引き返せない、これを選ぶしか道はないという悲しいまでの覚悟を感じて、対等になろうとするカズの姿が見えた。

ケンにとって、「父親」という存在はなんだったのだろう。
「あんたなんか父親になれるわけないじゃん」と早紀に言われた時、ケンは手をあげる。
一方的にカズに殴られていたとき、殴り返すのも、父親になんかなれないの言葉だった。
藤堂から、父親になるんだから、と言われると、嬉しそうにほほ笑む。
ケンは、人生を変えようと思っていたんだ。子供のことをきっかけに覚せい剤の世界から足を洗って、早紀と三人で生きようと思ってたんだ。
「子供ができたからって、てめえの都合だけで辞めるじゃねえんだよ」カズのセリフでつきつけられる厳しい現実。どうにかならなかったんだろうか、他に方法はなかったんだろうか。

裏社会とか覚せい剤の密売とか聞くと、薄暗い画面を想像する。
この作品の画面は明るい。日の光の中だ。それが一層厳しさを突き付ける。
日常と隣り合わせなのに、遠い。
国広を襲うのも、覚せい剤の取引しようとするのも、カズがさらわれるのも、日の光の下。藤堂の事務所も普通の部屋。カズが囚われる場所も事務所の一室とか倉庫じゃなくて橋の下だったり、どこにでもありそうな場所で行われることに、より一層絶望する。どこにでもある日常に溶け込んでいるからこそ、そこから抜け出すことのむずかしさを思う。
ケンのこともカズのことも、かわいそうとは思わない。自業自得とも思わない。ただ、違う人生を、望む人生を選ぶことはできなかったのか。そうさせてあげたかったと思った。

見終わった後、予告を初めて見て、カズがケンに「おまえがここ誘ってくれてよかったよ。一人じゃ今頃何しているか想像もつかねえ」って言うセリフが流れて、2人の関係を表してるセリフだなと思った。これを映像だけでも見せてくれたから、この作品好きなんだけど、欲を言えば、テルも含めた3人でバカ話とかしてるシーンをもっと見たかった。わちゃわちゃが足りない。そんなん見たら、もっと辛くなるのは分かってるんだけど、だって、カズはケンのこと大好きじゃない!?もう行動、セリフ、全身からカズが好きって叫んでた。ケンもカズのこと可愛いと思ってるじゃない!?手のかかるほっとけない弟みたいな。そんな2人の関係性を勝手に読み取ってしまったから、見たくなるのは仕方がない。