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ネタバレなしでは語れない

映画大好き。感想はネタバレしないと語れないので、思いっきり結末にふれています。

永い言い訳

映画

夏子に髪を切ってもらう幸夫の姿からはじまる。
家で髪を切ってもらっている姿に、子供の頃母親にそうしてもらったことを思い出した。あながち間違ってはいない連想かもしれないと、見ているうちに思った。
幸夫は徹底的に子供なのだ。それが簡単には変わらない。そして、そこに腹が立つ。幸夫の自己中心的な行動に、過剰な自意識にイライラさせられるのは、そこに自分を見てしまうからだ。あるわーそいういとこ、鏡に映った自分を見せられる気分、あー目を逸らしたい。

幸夫と陽一が対照的に描かれる。
夏子の死後、警察に留守電はなかったかと問われ、ないと答える幸夫。陽一はゆきからの最後の留守電を繰り返し聞いている。
灯にアレルギー反応が出てしまったときも、店の落ち度を責める幸夫と、言わなかった自分が悪いと言う陽一。
2人の対照的な人物設定も興味深かったが、幸夫と真平の配置の方に気持ちがいってしまった。
真平、灯と過ごすようになった幸夫の態度が、柔らかく、対等に思えたのだ。生前の夏子のことを初めて話すのも、真平にだった。そうだ、幸夫も子供だったのだ。
子供たちの面倒を見ているうちに、大宮家との関係も深まり、幸せそうに見える。ようやく穏やかな日常と取り戻したかのように見えてくる。

それが、岸本の一言で変わる。「子育ては男にとっての免罪符」
たぶん、図星なのだ。夏子の亡くなった現実に向き合わず逃げているだけだと言われた瞬間から、だから、幸夫の行動は逃げになる。
灯の誕生会で、子供のことで陽一と口論になった時(というか、幸夫が勝手にいじけて愚痴る時か)、幸夫は、自分達は子供を持たないと決めてたと言うと、陽一が「なっちゃんは欲しかったと思うよ」と返す。
夏子は子供が欲しかったのだ。それを幸夫も知っていたと思う。なぜなら、幸夫の想像の中に出てくる夏子は子供たちと笑っているからだ。4人で海に行く場面で、海辺に夏子が現れる。真平と灯と浜辺で楽しそうに笑っているのだ。ポスターに使われている画がそれ。
夏子は子供が欲しかったんだなと、なんとなく思ったのは、陽一、ゆき、真平、灯と過ごすとき、自分は一人で幸夫はいなくて、家族ぐるみのお付き合いにならないなとそう思ったとき、夏子はどんな気持ちでいたんだろうと想像した。その時、ふとそう思ったのだ。
そう思った場面を思いだそうとしているのだけど、はっきりしない。

海辺で、ゆきを思いだしてすぐ泣く陽一と違い、自分は葬式で泣けなかったと真平が、幸夫にもらす。それは幸夫も同じなのだ。悲しみ方はひとそれぞれ、泣けないから悲しんでいないことにはならない。幸夫は真平を慰めながら、自分にも言い聞かせていたのではないだろうか。
これをきっかけに、幸夫はテレビ番組への出演を決める。私は、自分の悲しみを客観視したいために思えた。
常に自分がどう見られるかを気にしていた自意識過剰な幸夫が、見せ方を演出され戸惑っているところがおかしくて、幸夫の変化だと思った。けど、人間そんなに簡単に変わらないと、西川監督は見せつけてくる。
それが、さっきも書いた、灯の誕生会。そこでの幸夫は、思い通りにならなくていじけて八つ当たりするただの子供。
でも、変化もみえる。夏子の死後、台所も居間も片付いていなかったのに、洗濯物をたたみ、料理をするようになった。
そこに、陽一が事故にあったと真平から電話が入る。真平と二人で、陽一を迎えに行くんだけど、その前に灯を鏑木先生のご両親に預けにいくシーンがあって、それが泣けた。
灯の誕生会で幸夫がいじけたのは、鏑木先生の存在が大きくて、彼女がいることで勝手に疎外感を持って、彼女の両親が子供の預かりをやっているってことも、意地みたいな感じで否定してしまう。
ただ、陽一は、幸夫がこれなくなってから、鏑木先生のご両親に預けていたんじゃないかと思うの。だから、慣れているところに灯を預けに行ったと、幸夫がそう判断したんだとしたら、それは、灯のための行動で、変に意地を張らなくなったことが、彼の変化に感じられたのだ。

向かう列車で、幸夫は真平と向かい合って座る。真平に語りかけながら、これは、幸夫が自分自身に、向き合っているのが可視化されているのだと思った。
ようやく、ここで夏子の死に、今までの自分に向き合うことができたのだ。だから、幸夫は真平と別れて、一人で帰る。トラックから手を振って去る真平を見送るのだ。

幸夫の後ろに理容室の赤と青と白の看板が見える。
ずっと夏子に髪を切ってもらっていたから、これからはどうしたらいいんだろうという、幸夫の弔辞に、きっとラストは髪を切るんだろうなと思った。
ちなみに、この弔辞が夏子の遺品を片づけているときに幸夫のナレーションでかかるので、夏子に対する独白かと思いきや、弔辞だった。幸夫の自意識の強さが表れていて上手い演出だと思った。
それで、後ろの理容室に入るのかなと思っていたら、夏子の店だった。そりゃそうだ。美容室で髪を切る時、鏡に映る自分と対面する。幸夫はこれから今の自分と向き合って生きていくのだ。