ネタバレなしでは語れない

映画大好き。感想はネタバレしないと語れないので、思いっきり結末にふれています。

私たちのハァハァ

初めてのバイト代は、当時大ファンだったバレーボール選手を見に行くためのチケット代と交通費に消えた。選手と交流できる懇親会もあった。参加費が5000円だった。今なら迷わず出せる5000円が、当時高校生だった自分には、一緒に行った友達とどうするか数日迷うくらいの大金だった。そんなことを久しぶりに思い出した。

彼女たちにはお金がない。その徹底した書き方が面白かった。

いよいよ切羽詰まった時、一ノ瀬が実はバイト代があると、気まずそうに打ち明ける。

学生時代は「お金がない」の大合唱だった。それで繋がりを保っていた側面もある。だから、一ノ瀬がずっと言えなかったこと、言うときの気まずそうなところがリアルだった。

 

好きなバンドのライブのために、北九州から東京まで自転車で行く、という笑っちゃうくらいのバカさの中に織り込まれる現実的な描写がいい。

 

周りはなんとなくでも進路が決まっていることに焦りを覚えるチエ。

見た目の評価を突き付けられる現実。それに対して血液型Bって答えればよかったなと努めて明るく振る舞うさっつんと、受け入れられず必要以上に卑屈になる文子。

車に乗せてくれた中年の男性には「長時間の運転大変ですね」って気を使えるのに、年齢が近い佐々木には遠慮がない4人。

 

もうどうしようもないってなった時にケンカをする文子とチエ。チエが勢い余って「本当はクリープハイプのことそんなに好きじゃなかった」と言わなくてもいいことを言ってしまう。思い出したのは、カラオケでクリープハイプを歌って盛り上がる4人。

まさか本当に自転車で行くとは思っていなかったチエは、漕ぐのが大変な車輪の小さい自転車で来る。

三奈子の部屋でDVDを見ながら、こんなに好きなのに実際に会って思ってたのと違ってたらどうしようと、いらぬ心配をするほどのめり込んでいる文子。

互いの熱量の違いは書かれて、お互いそれに気がついていたはず。それでも、好きって思う熱量が違っても一緒には楽しめる。それまで築いてきた関係と、違うなりにも思いを共有してきた時間があるから、また4人でライブ会場を目指すのだ。

 

ステージに上がってしまった4人に、三奈子が怒りをあらわにするシーンがある。

ファンを描いた映画だという監督がインタビューで言っていた。クリープハイプのファンなのは4人だけじゃないって言ってくれているようで、安心した。彼女たちの行動を、ファンだからこそ快く思わないという、このシーンが好きだ。何かや誰かのファンになったことがある人なら絶対共感するシーンだと思う。

 

お金がないのは、本当に徹底されていて、会場まで行く電車代がないのだから、当然北九州まで帰るお金はない。結局親を頼らざるを得ないという描写が誠実だなと思った。

 

大好きだったバレーボール選手は、怪我でこなかった。バイト代つぎ込んだのに、悩んで悩んで懇親会費も振り込んだのに、会えなかった。何しに行ったんだろうと思った。

自分の高校時代を、そんなにいいもんじゃなかったけど、でも、そこもひっくるめていいもんだったんだなと、懐かしく思い返した青春映画だった。